春の分蜂シーズンで待望のミツバチが入居してくれたのは良いものの、何らかの理由で移動させないといけないというケースが多々あります。セイヨウミツバチ養蜂でよく使用されている平置き式の巣箱では巣箱の移動は簡単ですが、重箱式巣箱でも移動は可能です。しかし、巣箱の状態によっては事前の準備が必要です。ここでは、巣箱の移動の際の注意点やそのやり方について、述べたいと思います。これが正解とは限りませんので、参考程度に捉えてください。
春の分蜂シーズンでミツバチが入居したばかりの巣箱の移動は比較的容易です。この頃の巣内にはハチミツもたくさん貯蔵されておらず、ミツバチの数も少ないため巣箱が軽く持ち運びが容易です。
春から夏場に掛けては、ミツバチが集めてきたハチミツが巣箱内に貯蔵されてきており巣箱がかなり重たくなっています。さらに、夏場は蜂の巣の材質であるミツロウが柔らかくなり、巣箱移動の際の震動によって蜂の巣が落ちてしまうことがあります。夏場の移動は極力避けるほうが賢明です。
秋〜冬にかけては気温が下がりミツロウも固くなるので巣の耐震性が上がり、移動は比較的安全に行えます。しかしながら、ハチミツはかなり多く貯蔵されており、巣箱を移動させるには一人では難しく、二人掛かりで行う必要があるでしょう。巣箱を持ち上げた利する際に腰を痛めたりする可能性もありますので、可能であれば移動前に採蜜を行い、巣箱重量を下げてから移動したほうが良いでしょう。しかし、採蜜をやりすぎると巣が柔らかい部分だけが残り、巣落ちしてしまう可能性が高まりますので注意が必要です。
結局のところ、巣箱の移動を行うならば巣箱重量が増えない分蜂シーズン後から梅雨入前までにやってしまうのが良いです。それ以外は上記で記載したようにいろいろと制約がてくるので、移動させないことを前提に最初から巣箱の最適な設置場所を決めておくことが重要です。移動は最後の手段と考えてください。
巣箱の移動距離に特に制限はありませんが、状況によって変わります(あくまで、目安です)。
いつでもそのままの状態で移動して大丈夫ですが、ミツバチは元の場所を憶えているので移動した巣箱が分からずに暫くは元の場所を飛びまわります。巣箱から匂いが出ていますので、最終的にはミツバチは全て巣箱の中に入ります。夜間に実施するとスムーズに行えます。
いつでもそのままの状態で移動して大丈夫ですが、10m近くになると一度の移動ではミツバチは巣箱に戻りにくくなります。一度に移動させずに、毎日数mずつ移動させると確実に巣箱に戻ります。夜間にやるとスムーズに行えます。
20m以上の移動であれば、以下で巣箱の具体的な移動方法についてご紹介します。
巣箱の移動は事前準備を行った上で搬送するとスムーズに行えます。JBeeFarmでよくやっているやり方をご紹介します。
巣箱搬送中にミツバチ達が飛び出て行かないようにミツバチを巣箱内に閉じ込めます。昼真はミツバチの多くが巣箱から飛び出し、外で花蜜を集めるために活動していますので、夜間ミツバチが全て巣内に戻ってから巣箱内に閉じ込めます(昼真に閉じ込めて移動させると、外出中のミツバチが戻る場所がなくなります)。事前(昼真のうち)に巣門(スリット状入口)の段を移動用巣箱(底が塞いであり、空気穴の網が張られている)に交換し、棒(何でも良い)などを差し込み1cm程の隙間を空けておきます(写真参照)。夜間暗くなって(19時〜20時くらい)、もしくは早朝にミツバチ達が全て巣箱内に戻っている状況で、差し込んだ棒をそーっと引き抜きミツバチを巣箱内に閉じ込めます。完全に閉じ込めたら、横ずれ防止のためにガムテープで固定します。
巣箱内にミツバチを閉じ込めてしまえば、移動はどの時間帯でも可能です。JBeeFarmでは夜間もしくは早朝に実施しています。車での搬送では、輸送用の固定装置を準備すればどのような車両でも輸送できます。固定装置が無ければ、一人が座席で巣箱を抱えたまま移動させる事は可能ですが、長時間の移動は疲れます。JBeeFarmの固定装置はコンパネ板に滑り止めの板とロープ固定フックで構成されており、非常にシンプルな装置となっています。
搬送時は過度な振動によって、巣落ちする可能性がありますので、なるべく振動が無いように車の運転を心掛けると良いでしょう。しかし、ミツバチは多少の振動や音では動じませんので、極端に神経質になる必要もありません。
入居したばかりの群の誘引または強制捕獲後にすぐに移動させると、新女王蜂は交尾が終わっていない可能性があるため、その後に働き蜂を産卵できずに夏までに群が終わってしまうことがあります。交尾成功の判断材料として、捕獲した後に働き蜂が花粉を集め始めるのを確認しましょう。または一週間ほど群をその場で営巣させてから移動させるとほぼ確実な移動が可能となります。誰かに捕獲群を譲る場合は注意が必要です。
巣箱の移動距離に限界はありません。どこに行ってもミツバチはそこからスタートできます。しかし、移動先の環境が極端に大きく変わってしまったら、ミツバチも簡単には生きてはいけないでしょう。例えば、暖かい九州と信州の山間部や東北地方などでは冬の厳しさが大きく異なりますし、植生も違いますので、ミツバチにとってもその変化は大きなストレスになると考えられます。人間の都合で移動させるにも限度があります。できるだけ今いる環境から大きく変わらない場所への移動を心掛けましょう。そうなると、数kmから100km以内程度が妥当だと思います。100km近くも苦労して移動させるくらなら、その地域で生息しているミツバチを誘引した方が環境にも優しいですよ。