ニホンミツバチとの出会い

私が養蜂と始めて出会ったのは2016年の秋ごろだったと思います。当時、関西で電気エンジニアとしての社会人生活を中断し、オンライン大学で学生しながら生活していたのですが、福岡の実家の父が癌で亡くなってしまったのです。実家では母が一人と老犬一匹の暮らし。私の仕事も中断中でしたので、母の一人での生活だと何かと苦労も多かろうと、実家に戻ったのです。

実家は福岡市内ではありますが郊外にあり、周辺には特に何かあるわけでもなく、寂れた住宅地しかありません。せっかく田舎に戻ったのだから、暫くのんびりしようかと時間を過ごしていたところ、地域のM社長と知り合いになりました。その方は福岡の南側の背振山系に繋がる自然豊かな場所に山小屋を持っていたので、度々、足を運ばせてもらい、「やっぱり自然っていいなと」思いながらそこで、時間を過ごす日々が続きました。

その時、山小屋の側に置いてあったのが、ニホンミツバチの巣箱でした。当時の私はミツバチの巣箱なんて見たのは初めてでしたし、ミツバチを意識して間近で見たことともありません。なおさらのこと、ニホンミツバチとセイヨウミツバチとの違いなど分かるはずがありませんでした。ある日、そこで採れたハチミツも食べさせてもらいましたが、その余りの旨さに感激したことを憶えています。今まで食べたハチミツは何だったのだろうか、世の中にはこんなに旨いハチミツがあったのかと衝撃の一日でした。その場で社長のMさんに言われたのが、「養蜂やってみればいいじゃない?」との言葉。その時は「まさか自分が、、、」とやり過ごしましたが、その後、なんとなく、ずーっと頭に残る言葉となっていました。

それから半年ほど仕事もせず山小屋に入り浸っていましたが、養蜂については何も進展しませんでした。ニホンミツバチが巣箱の周りを飛んでいるのを「かわいいな」と思いながら「いつか養蜂をやりたいなぁ」となんとなく思い続けていましたが、ミツバチの分蜂が近づく4月を前に養蜂をやってみようと急に決心し、廃材を使った巣箱作りをM社長に教えてもらい巣箱作りを開始したのでした。

木工でのDIYの経験値はゼロ。ノコギリや電動ドリルの使い方はズブの素人。指導されるがままにやってみるのみ。巣箱は何とか完成したものの、巣箱の設置方法や誘引の方法などは全くの無知の状態です。M社長からご指導を戴くままに4月の分蜂時期を迎え、ミツバチが入居してくれればラッキーかなと軽い気持ちでニホンミツバチを待ち続けました(その当時はキンリョウヘンの存在も知らずに、ギリギリになってM社長のキンリョウヘンを分けてもらうことで誘引をスタート)。

近所の山に巣箱を設置して何日ほど待ったでしょうか。そんな長い日数を待った記憶がないのですが、数日ぶりに誘引巣箱を点検しにいくと、ミツバチらしき昆虫がいるではありませんか?「これってミツバチ?」と確信を持てぬままじっくりと観察し、M社長の山小屋でみたニホンミツバチと同じ形、同じサイズであることを確認しました。その時の感動は何とも言えませんでした。今だに、その当時の情景の記憶が残っているのだから、よっぽど感動したのだと思います。

しかし、ミツバチが入居したとはいえ、何も分からない状態です。次に何をすればいいのかわかりません。M社長の言われるがまま、巣箱を固定したり、雨で巣箱が濡れないように屋根を付けたりと必死でした。こちらはミツバチの為にといろいろと試行錯誤していましたが、ミツバチの方は人間なんてまったく関係ないようにマイペースで巣作りに励む日々。あっというまに巣箱の中が新しい巣房と蜂で一杯になり自然の力とはこんなにすごい、勢いのあるものだなと関心させられっぱなしでした。よく考えると、自然界の雑草もあっというまに大きくなります。人間が気が付かないところで自然界の植物や昆虫、生き物は逞しく生きているのだと気が付きました。私は知ってるつもりで、何も知らなかったのです。

時が過ぎ、夏になって巣が大きくなると始めて採蜜を行いました(今となっては早すぎとわかり秋に採蜜します)。当然、私は何もできません。M社長に手伝ってもらい、採蜜をおこないました。M社長も慣れていなかったのか、ミツバチをたくさん殺してしまいました。「ごめんなさい」と思いつつ、その場で美味しいハチミツを頂きました。ミツバチの命を犠牲にして、ハチミツを頂くことに心を痛めつつ、その甘さにまたも感動したのでした。なにせ、自分が巣箱を作って、ミツバチを呼び込んで、そのミツバチが集めて作ったハチミツです。おいしくないはずはありません。

まあ、こんな感じで私のニホンミツバチ養蜂が始まりました。あれから、6年くらい経ったのでしょうか?今でもミツバチとの関わりが続いています。毎年少しずつ、養蜂が上手になってます。そして、毎年のように天然のハチミツが採取できます。その採取したハチミツを販売もできますし、誰かにプレゼントすることで喜ばれます。巣箱を置いたオーガニック野菜の農家さんからは受粉状態が良くなったと感謝もされます。自分も楽しいし、良いことばかりなのです。誰も不幸にしないで、楽しくやれる趣味なのです。

ハチミツはニホンミツバチが周辺から集めた花蜜だけが含まれていますので、安価なハチミツに含まれている人工甘味料などは一切含まれていません。そして、一般的な商業養蜂で使用されている抗生物質などの成分も含まれていません。残念ながら、周辺で撒かれる農薬や除草剤の成分は含まれているでしょう。それは社会が農薬や除草剤を撒かない社会にならないと解決しない問題です。今の私では何もできません。

このように、ニホンミツバチとの関わりは自分の考え方を大きく前進させてくれました。このような楽しい、為になることを自分一人だけで楽しむには勿体ないですよね。多くの人が楽しみながらニホンミツバチ養蜂に関わる事が次の私の使命ではないかと考え、現在、自分自身がニホンミツバチ養蜂をやりながら、もっと多くのニホンミツバチ養蜂家を増やす活動を行っています。ミツバチに関するお話会や巣箱作りやミツバチ誘引のワークショップなど。少しずつですが、養蜂家さんが増えてきていることは大変良いことだと思ってます。

ミツバチとの出会い、全ては必然だと感じています。父親の死去、実家への帰省、仕事もしないでぶらぶらほっつき歩く日々、そしてM社長との出会い。そして、全てが私が今まで経験してきた事と繋がっています。そして、これからもいろんな人との出会いが待っているでしょう。

ニホンミツバチ養蜂は思った以上に簡単で敷居は低いものです。プロになる必要はありません。趣味で十分なのです。私はその敷居を少しでも下げて、後押しする役目を負っていると考えています。とうことで、みなさんもニホンミツバチ養蜂を始めてみませんか?時間と場所さえあれば、誰でも始められますよ。